土木施設の命名について
−地名・風土資産を大切に−

竹林 征三

工学博士・技術士
富士常葉大学 環境防災学部 教授
同大学附属 風土工学研究所 所長
これからの”地域づくり”の実学として新たに
「風土工学理論」の体系を構築し、その普及啓
発につとめている。

受賞・科学技術長官賞
   第一回科学技術普及啓発功績者
  ・前田工学賞・第五回優秀博士論文賞
  ・建設大臣研究業績表彰
  ・北上市「鬼の館」創作民話・最優秀賞
著書「風土工学序説」「風土工学への招待」
  「湖水の文化史(全五巻)」「職人と匠」
  「東洋の知恵の環境学」「ダムのはなし」
  「景観十年・風景百年・風土千年」
  「実務者のための建設環境技術」他多数

1.土木施設の名前
 1−1.土木施設の名前
 (1)路線名(国道○号線、県道○○××線、△△停車場線、遊歩道名、etc)
 (2)橋梁名(道路橋名、人道橋名、跨線橋名、鉄道橋名、高架橋名、etc)
 (3)トンネル名(隧道名、洞門工名、共同溝名、覆工名、etc)
 (4)樋門名、樋管名、水門名、閘門名、魚道名、固定堰名、可動堰名、
    湖止工名、分派堰名、谷止工名、砂防ダム名、土留工名、法覆工名、
    防護工名、防災基地名、備蓄倉庫名、サイフォン名、用水路名、排水路名、etc

1−2.土木施設は地元(地域)からの要望で作られる
 ○施設の機能(利便性向上、防災性向上etc)の要望はあっても施設の名前の要望は殆どない。
 ○地元から施設の名前について要望があった場合は地元と協議されるが、一般的には施設管理者が
   施設管理の必要性から名付けている。
 ○地元市町村と協議されていない場合が大半である。
 ○施設管理台帳を調べなければ名前がわからない場合もある。
 ○施設の名前が付けられていない場合もある。
 ○事業実施にあたり、事業計画予算計上等の必要性から名付けられている。
 ○橋梁名、トンネル名でも小さいものは名付けられていない場合もある。
 ○高速道路等で大きい橋でも、距離標の高架橋梁部として、橋梁名が付けられていない場合も多い。
 ○ダム名は事業予算計上の必要性から名付けられているが、ダム湖名については名無しの場合が大半である。
  例:ダムの数の多い長崎県などの場合、ダム湖名は殆どなし。

2.土木施設名の由来の実際
 (1)橋梁名の由来の分類(大阪市内の橋の事例)
    @河川名(フルネーム、通称・愛称、短縮されたもの、同名を避けたもの)
    A地名(片方の地名、両岸の地名の和、両岸の地名のうち一字ずつ、古い渡しの名、同名を避けたもの、
     隣接橋名からの派生、橋名が地名になったもの)
    B人名(架設者・商人等、付近の地域の開発者名、僧侶、etc)
    C近傍の名所旧跡(社寺名、城名、方角街道筋名、地場産業、境界、etc)
    D故事来歴(伝説、古典の言葉より、古い橋の名前の復活、学校名、etc)
    E橋のイメージ(架橋地のイメージ、橋の形状、形態、etc)
    F祈願を込めたもの(橋の延命、安全性を、etc)
    Gその他(架橋事業を表すもの、築造時期、etc)
 (2)機能一辺倒の命名事例
    @数字順番(1号橋、2号橋、3号橋、○○橋、新○○橋、新々○○橋、etc)
    A位置上下関係(東○○橋、西○○橋、北○○橋、上○○橋、下○○橋、etc)
    B○○迂回路、○○潜水橋、県道○○△△線、市道××停車場線、etc)
 (3)土木施設名と地名との関係
   土木施設名は地名にあらず
    ・土木施設名の命名にあたっては地名を最も尊重されるし、地名を基本とするも実際にはどうすべきか
     多種多様な組み合わせ、案が考えられる。
    ・土木施設名のうち、あるもの極く少ないが、将来地名に風化する可能性を秘めている。(心斎橋、日本橋、etc)

3.土木施設名への思い
 (1)行政効率一辺倒の名から人々の思いが伝わる名へ
    @通り名等に愛称名をつけてほしい。(全国的な取り組み)
     新しい愛称名には命名の由来説明板を設置しようとの動き
    Aこれまで名付けられていなかったダム湖等に名を付けダム湖等の価値を再評価したいとの思いがある。森と湖の旬間の運動。
    B地域づくりにおいて、一つ一つバラバラな土木施設名でなく、統一的な考えによりまとまりのある名前にしたいとの思いがある。
    C地域づくりにおいて、古地名を大切に後世に伝えたいとの思いがある。
 (2)風土工学による土木施設の名付けの心
    @地名を名付けの基本に位置づけ大切に評価しよう。考えられる多くの地名案の中から、その施設名にふさわしい地名は何か
     (土木施設の設置位置の地名ひとつにしても簡単ではない。いろいろな難しさを内在している。例えば町名、大字名、小字名、
     自然地名、広域地名、地域地名、旧地名、呼称地名、愛称地名、etc)を徹底的に考えよう。案は一つではない。
    A地名以外の風土資産(地物、風物、歴史、故事、伝説、民話、etc)を徹底的にシステム的に調べて、地域のアイデンティティ
     形成に寄与できるものはないか考えよう。
    B以上のような土木施設の名付けの素材となりうるものをシステム的にリストアップし、いろいろな支店から総合的にシステム的
     に評価しよう。