風土と橋梁

 

松村 博

京都大学工学部卒

同大学大学院工学研究所修士課程終了土木工学専攻

大阪市土木局橋梁課、計画局年計画課をへて現在計画調整局理事

神埼橋、川崎橋、比花大橋などの設計担当、都市計画、防災計画などを担当し、

現在、大阪市の技術情報の収集、管理、発信を担当

    

1.はじめに

 「風土」というものは確かにある。

しかし、橋のデザインに関してそれをうまく説明する手段を持っていない。

たとえば、パリ・セーヌ川の橋とロンドン・テムズ川の橋、大阪と京都の橋のデザインは違っている。

一方、大阪と東京の橋の違いを具体的に述べるは難しい。「風土」とは人間の営みの結果、うまれたものと思える。

 橋のデザインが決められるのは、

・ 地形条件  ・ 材料の入手

・ 周辺環境  ・ デザイナーの資質、

などによるが、これらを分析的に解説しても結果を説明しきるのは大変難しい。

2.地域的特長をもった橋梁群

 古くは日本の橋はほとんどが木造橋で、それも木杭で支持された桁橋であった。

 しかし、限定された地域に特徴のあるデザインの橋が分布した。

           熊本県を中心とした石造アーチ橋

           山口県の石の刎橋

           甲信越地方の刎橋

           四国中央部の蔓橋

           愛媛県中部の屋根付橋

           四万十川水系の潜り橋

 これらの橋梁群は、地形的、材料的、環境的条件のもとでデザイナーの試行錯誤の積み重ねによって生み出されたが、それは結果としか言いようがない。

3.政策担当者の意思の反映

1)江戸城周辺の擬宝珠高欄

2)明治初の近代橋

 :東京の石橋、大阪の鉄橋

3)東北地方の明治前期の石橋

 

4.近代橋のデザインの統一

1)地形的制約による形式の類似

・大阪、東横堀川のアーチ:鋼とRCの使い分け−西横堀川の桁橋、方杖橋

           東京、江東区のトラス橋

2)周辺環境とのデザインの統一

・御堂筋の淀屋橋、大江橋−デザインコンペ

 :大阪市役所、日銀大阪支店との統一

           土佐堀川遊歩道と西国橋

 :住友銀行ビルとの整合性

3)橋梁群としての変化と調和

・隅田川の橋:帝都復興都市計画事業

           旧淀川の橋:大阪市第一次都市計画事業風景として定着−新橋の架設:デザイン上の違和感を避ける

 

5.地域の歴史、伝承をデザイン化

・ 大阪・高麗橋:櫓屋敷

・ 楯原橋、猪飼野新橋、神崎橋

:古代の分様をデザイン

           盛岡・中津川などの高欄、親柱:南部鉄器

           京都・鴨川などの擬宝珠高欄

【留意点】

           全体デザインの整合性

           分かり易い、稚拙なデザインを排除

           主題を複数持ち込まない

 

6.橋のデザインの基本

・ 構造的必然性

・ 上下部のバランス

・ 材料を生かす

技術、材料の発達によって多様性が失われる

自然ににじみ出る日本的デザイン

 :デザイナーに刷り込まれているもの

【例】:川崎橋の塔−五重塔の比率

   天神橋スロープ−雪吊りのイメージ