砂防の広報

 

 保科 幸二

昭和42年東京農工大学農学部林学科卒。

建設省入省。

河川局を経て福井県・新潟県で土木部砂防課長、

秋田県で土木部長を歴任。

NPO砂防広報センター理事長。

 


1、はじめに

相も変わらず、毎年のように、日本のどこかで土砂災害が発生し、貴重な人命や財産が奪われています。報道をみていると、災害にあった当事者の人たちは、インタビューに答えて、必ずといっていいほど、自分の住んでいる所が、まさかこんな目に遭うなんて夢にも思っていなかった、という話をされます。土石流危険区域に住んでいても、自分のところで土石流が発生し、自分が災害に巻き込まれる危険があるかもしれない、と関心を持っている人は殆んどいないということが解ります。危険箇所や危険区域を示すハザードマップが市町村の手によって公表が進んでいますが、知っていただきたい人、そしてさらにその危険性を理解し、日頃の備えをしておいて欲しい人にどれだけ周知されているかというと、まだまだ寂しい状況にあると言えます。また世間一般には、多くの人が「砂防」という言葉さえ知らないのが実態です。そこで周知のための広報が大事になるのですが、効果的な広報は簡単でありません。知らせるばかりでなく、知る努力も求められます。ここでは砂防の広報について代表的事例を紹介しながら、知る努力と知らせる努力のあり方にせまってみたいと思います。

 

2、砂防を知らない人への広報(知らせる努力の一例)

「災害は忘れた頃にやってくる」と言われますが、自分の住む土地が、過去甚大な災害を蒙ったことがあり、そのために先人達が闘いの苦労を積み重ねてきたという重大な歴史的事実があっても、日頃の生活の中では、忘れ去られているのが一般です。特に、山間部で実施される荒廃対策を、普段知る機会も無い都市地域に住む人は、自分たちがそれによって守られているなど知る由もないのが実態です。そんな都市地域の中から、富山市をターゲットにとりあげ、その市民を対象に、砂防広報センターの独自の広報戦略を実際に仕掛けてみました。

 

3、地域での取り組み(知る努力の一例)

過去に災害を蒙ったことのある危険区域に直接かかわる人たちが、災害経験を風化させないため、あるいは先人たちが災害と闘った苦労の歴史を後世に伝えるため果敢に取り組んでいる地域があります。そのボランティア活動が注目されます。

 

4、広報の手段について

副読本、アニメ、絵本、映像、体験装置、パンフレット、事業概要、ホームページ、防災マップ、などの広報ツールや、またフォーラム、講演会、現地見学会、訓練、総合学習、資料館、住民参加、新聞テレビなどの広報手段は様々です。広報の対象者が、危険区域に住む人か、その他一般の人か、また防災担当者か、など誰に何を目的に周知するかにより、適切なツール手段は異なります。

 

5、広報の技術について

優秀な砂防の技術者が素人相手に必ずしも上手に解り易く説明出来るとは限りません。立派な学術論文そのままでは専門家にはよくても、一般の人に理解されにくいのが普通です。内容がわかり易いか、興味深く面白いか、・・対象者に合わせて話術、シナリオ、デザイン、写真、解説文、演出、進行、運営・・など広報の質(技術)が重要です。広報技術は砂防技術とは全く異質の経験と実績がものをいう世界です。

 

6、あとがき

手を尽くして実施した広報活動により、一般住民の防災意識がどれだけ向上したかを把握する手立て(広報評価)が肝要です。参考指標として参加者数、アクセス数、購読者数、投書問い合わせ数、などがあります、が、アンケート調査による分析やモニター制度の活用などが図られるべきです。