■講演の報告


国土学のすすめ−未来の地域を考える−」

 大石 久和(財)国土技術研究センター理事長


 大石氏の提唱する「国土学」とは、国土への働きかけであって、「公共事業という言葉では、単年度の表現能力しか持ち得ない」ことから構築された。大石氏は、「我々が公共によって取り巻かれているという部分の多さについて、思いが至らないのはなぜなのか」と問題提起した後、城壁史観と自然災害史史観によって、日本とそれ以外の国々の国土の違いを説明した。カルカソンヌやパリのような城壁に囲まれた都市においては、最も重要な公共投資は城壁建設であり、城壁という“公共”なしには暮していけず、「城壁に囲まれた狭い区画の中に大勢の人々が共同体生活を営むためには、公益を優先するしかなかった。彼らには都市に暮すための必然として、ルールの作成と受容という5000年の歴史がある」とし、城壁に囲まれていない日本とは、都市利用に関する概念も違っていると述べた。城壁都市には虐殺の歴史があり、日本は軟弱地盤の上に豪雨が降るという国土の特性を持ち、自然災害で大量死する国であると比較分析。さらに、日本には公環境の上に私環境が成り立っているという認識が欠落している点を指摘、豊かな暮らしを実現するために、「新しい時代には新しい『制度』と新しい『装置』が必要」と主張し、「国土に働きかけることによって、私たちは国土から恵みを得る。その努力は、EUが達成してきているレベルには届いていない」と述べた。