■ 7.石河内に住む大亀 ■
尾鈴山を下ると石河内というところに出ました。ともに戦った農民たちは、一人、また一人と自分達の村に戻っていきました。そしてこの石河内が、民兵となった農民との別れの最後の場所でした。最後の農民を見送って、王子は石河内の“城(しろ)”と呼ばれている場所で休むことにしました。そこは、大きく蛇行する小丸川にまわりをぐるりと囲まれており、唯一背後の大瀬内山地からのみ入っていける場所でした。家族をつないでいた小丸川の流れに守られているような、癒されるような、そんな気持ちになりました。そして、戦いの疲れもあり、そのまま眠ってしまいました。
「おい、おまえは誰だ。私の背中で眠るやつは。」
その低く、ゆっくりとした声は、城の下から聞こえてくるようです。城の下をのぞき込むと、なんと大きな亀が城を支えているではありませんか *21。
「私は長い間この場所を守っているのだ。この地を荒らすやつは許さないぞ。」
王子は城の亀に自分はこの地を荒らしにきたのではないこと、自分もこの地の人に大変感謝していることを話しました。そして、これからもずっと、この地を守って下さいとお願いしました。亀は王子の話を聞き終わり、王子が敵ではないことが分かると、また元のとおり頭と足をひっこめました。
21)[石の城の伝説] 石城の下に一匹の大亀が住んでいて、別名亀城と呼ばれていたといい、小丸川をへだてた前坂から敵の攻撃を受けると、城の下の亀が四足をふんばって前坂よりも高く城を持ち上げ難攻不落をほこっていたという。城主は、背後の大瀬内からの攻撃を恐れ亀の首のように突き出た部分に掘割をつくろうとしたところ誤って城の下の亀の首を切ってしまった。それ以来城は持ち上がらずついには落城したという。