■ 8.福智王子の夢 ■
比木に居所を定めた福智王子は、その後長くこの地を治めました。里人達の悩みを聞き入れそれによく答えました。そして、里人の尊敬を集めました。
長きにわたりこの地を治めた福智王子が自分の命がそう長くないことを悟った時、病床である夢を見ました。それは、神門での戦いのあと立ち寄った尾鈴山で出会った白馬にまたがる山神でした。
「小丸川の水は恵みの水だ。尾鈴山の貴重な自然が育んだ水だ。おまえたち人間が、自然を大切にし、自然とともに暮らしていけるならばその恵みを与えよう。」
山神は夢のなかでそう語っているようでした。
目が覚めた時、福智王子は里人の一人を枕元に呼んでこう言いました。
「異国から突然やってきた私たち一家を、この地に住む人々は暖かく迎え入れてくれた。本当に感謝している。お世話になった全ての人に直接恩返しをしたかったが、私の命もそんなに長くもちそうにない。私が死んだら、私の代わりにお世話になった里人へお礼廻りをしてくれないか。私がどんなに感謝していたか、その気持ちを伝えてほしいのだ。そして、私たち親子を繋いでくれた小丸川の水を育む自然を大切にし、小丸川が氾濫しても決してあきらめないで欲しい。そうすれば、いつかきっと小丸川の水はこの里を豊かに潤す恵みの水となるだろう。」